ソーシャルスタイル理論(Social Style Theory)は、個人の対人行動の傾向をもとに人間関係のパターンを理解するモデルとして、1950年代後半にアメリカの心理学者デイヴィッド・メリル(David W. Merrill)とロジャー・リード(Roger H. Reid)によって提唱されました[1]。彼らは組織内の人間関係とコミュニケーション効果を分析し、行動観察に基づいて人を4つの基本スタイルに分類しました。それが「ドライビング(主導型)」「エクスプレッシブ(社交型)」「エミアブル(協調型)」「アナリティカル(分析型)」の4タイプです。
この理論では、人の行動を「主張性(Assertiveness)」と「感情表出性(Responsiveness)」という2軸で捉えます。主張性が高い人は意見を積極的に述べ、感情表出性が高い人は感情や人間関係を重視します。これらの組み合わせにより、行動や対人スタイルの特徴が明確化されるとされています[2]。
1960年代以降、このモデルは産業心理学やリーダーシップ研究、営業教育などに広く応用されてきました。Merrill & Reid(1981)は、ソーシャルスタイルを測定するための観察用尺度「Social Style Profile(SSP)」を開発し、ビジネス研修や管理職教育に活用しました[3]。その後、Wilson Learning社やTracom Groupなどが研究を継続し、行動指標の信頼性と妥当性が確認されています[4]。
日本でも、組織心理学やコミュニケーション教育の分野で同モデルが導入され、特に「自己理解と他者理解を深めるツール」として注目されています[5]。ソーシャルスタイル理論は、優劣をつけるものではなく、異なるタイプの人との関わり方を学び、相互理解を促す実践的な枠組みです。
本診断では、メリルとリードの理論をもとに、現代の日本社会に適した形で再構成しました。主張性・感情表出性の2軸を測定し、あなたのスタイルが「思考・主導型」「直感・社交型」「温和・協調型」「慎重・分析型」のどれに近いかを明らかにします。対人関係のクセを理解し、職場・家庭・友人関係でより円滑なコミュニケーションを築く手がかりとすることを目的としています。
上記論文の調査後、それぞれの測定項目について、公認心理師、臨床心理士、心理学の大学院を卒業した者が中心となり、検討を加え質問項目を精査しました。設定した2因子についてそれぞれ10の質問を設定し、合計20問の尺度としています。
【主張性軸(Assertive Axis)】
自分の意見や考えをどの程度はっきり表現するかを測定します。
1 意見があるときは自分から発言する
2 話し合いではリードすることが多い
3 初対面の人ともすぐ話しかけられる
4 反対意見でも遠慮せずに伝える
5 目標に向かって行動を起こすのが得意
6 人に頼るより自分で決めたい方だ
7 議論で主張をはっきり示す方だ
8 リーダーシップをとっていることが多い
9 周囲が迷っているときは方針を示す
10 自分の意見を言わずに終わることが少ない
【感情表現軸(Emotional Expression Axis)】
感情や気持ちをどの程度オープンに伝えるかを測定します。
11 感情を表情や声に出しやすい
12 喜びや感動を素直に表現する
13 人との会話でリアクションが大きい方だ
14 気持ちを隠さず伝えるようにしている
15 怒りや不安を穏やかに伝えられる
16 話すときに身振り手振りをよく使う
17 周囲の気持ちに敏感に反応する
18 控えめにサポートする立場になりやすい
19 人の感情を読み取って対応できる
20 気持ちを共有しながら話すのが得意だ
【回答方式】
各質問は次の5件法で回答します。
全く当てはまらない 0点
あまり当てはまらない 1点
どちらともいえない 2点
やや当てはまる 3点
よく当てはまる 4点
【各因子の構成】
本診断は、「主張性軸(Assertive Axis)」と「感情表現軸(Emotional Expression Axis)」の2因子で構成されています。
それぞれ10問ずつ、合計20問を設定し、各軸ごとに得点を算出します。
主張性は「行動の積極さ・決断力・自己主張の強さ」、
感情表現は「感情の開示・表情の豊かさ・共感性の強さ」を測定します。
【採点方法】
各軸は10問で構成され、合計点は0〜40点となります。
得点はそれぞれの軸ごとに4段階で区分し、両軸の掛け合わせによって16タイプを特定します。
以下では、正規分布(平均=20点、標準偏差=6点)を仮定し、
全体が4区分(約25%ずつ)に近くなるよう、
主張性軸・感情表現軸それぞれの具体的な得点範を定義します。
この設計により、単純な10点刻みよりも自然な分布を実現できます。
【X 主張性軸】
A(高) 28点以上(28〜40点) 非常に積極的で主導的。発言や行動のリーダーシップが強い。
B(やや高) 20〜27点 自発的で行動的。意見を述べるが、周囲との調和も保つタイプ。
C(やや低) 12〜19点 控えめだが必要な場面では自己主張ができる。
D(低) 0〜11点 協調的で受動的。周囲に合わせる傾向が強い。
【Y 感情表現軸】
1(高) 28点以上(28〜40点) 感情豊かで社交的。表情や言葉で気持ちをよく表す。
2(やや高) 20〜27点 温かく親しみやすい。柔らかく感情を伝えられる。
3(やや低) 12〜19点 落ち着きがあり控えめ。感情を内に秘めやすい。
4(低) 0〜11点 理性的で感情を抑える傾向。思考的・分析的に判断する。
【思考・主導型】 (ドライビング)
1 統率者 高 低
2 構造化推進型 高 やや低
3 実務実行型 やや高 低
4 戦略設計型 やや高 やや低
【直感・社交型】 (エクスプレッシブ)
5 影響発信型 高 高
6 未来創造型 高 やや高
7 活力創出型 やや高 高
8 交流促進型 やや高 やや高
【温和・協調型】 (エミアブル)
9 献身支援型 低 高
10 環境調整型 低 やや高
11 和合重視型 やや低 高
12 信頼関係構築型 やや低 やや高
【慎重・分析型】 (アナリティカル)
13 徹底調査型 低 低
14 品質検証型 低 やや低
15 論理思考型 やや低 低
16 客観情報収集型 やや低 やや低
診断結果について、それぞれのタイプごとに特徴や注意点を1,000文字前後で評価しました。文章については、先行研究や作成者の臨床経験を基に作成しました。
[当診断は因子構造及び信頼性・妥当性をチェックしたものではありません。あくまで専門家としての検討を加えたものです。統計的な根拠が希薄で、研究に耐えられるレベルの尺度ではないことをご了承ください
1. Merrill, D. W., & Reid, R. H. (1972). Personal Styles and Effective Performance. Chilton Book Company.
2. Bolton, R., & Bolton, D. G. (1984). Social Style/Management Style: Developing Productive Work Relationships. AMACOM.
3. Merrill, D. W., & Reid, R. H. (1981). The Social Style Profile. TRACOM Group.
4. Tracom Group (2016). The Social Style Model: History and Validation. TRACOM Group White Paper.
5. 中野明(2015)『コミュニケーションの心理学:ソーシャルスタイル理論の応用』ナカニシヤ出版.