非認知能力とは「感情管理、自己調整、対人関係構築を通じて、職業での成果向上やチームの円滑な協働、社会的適応を促進する能力」です。人間関係の構築、問題解決、リーダーシップの発揮にも深く関わるため、非認知能力を強化することが、個人と組織の成長、ビジネスの成功に繋がると期待されます。
当診断では、特にビジネスにおける非認知能力を8つの指標で測ることができます。
非認知能力は、以下の歴史的背景の中で注目されてきました。
【ペリー就学前計画】
ペリー就学前計画は、1960年代に米国ミシガン州で、低所得層のアフリカ系アメリカ人の子どもを対象に行われた教育プログラムです[1]。この計画の目的は、早期教育が学業成績や社会的成功に与える影響を検証することでした。2〜5歳の子どもに質の高い就学前教育を提供し、その後の成長を長期的に追跡調査しました。
その結果、参加者は高校卒業率の向上、就職率の増加、犯罪率の低下、経済的自立など、学業成績や社会経済的状況で有意な改善を示しました。特に重要なのは、自制心、社会性、やり抜く力といった非認知能力の向上が、これらの長期的な成果を支えた点です。この研究は、非認知能力が人生の成功に不可欠な役割を果たすことを強く示唆し、その後の教育政策や研究に大きな影響を与えました(Schweinhart, 2004)[1]。
【OECDの取り組み】
OECD(経済協力開発機構)は、非認知能力の重要性を国際的に認識し、2015年に「社会的・情動的スキル」という枠組みで非認知能力を測定し、政策形成に活用する取り組みを進めています(OECD, 2015)[2]。これは、学力だけでなく、個人のウェルビーイングや社会参加に資する能力を育成することの重要性を示しています。
【文部科学省の取り組み】
文部科学省の初等中等教育分科会は2015年に、育成すべき資質・能力を「何を理解し、何ができるか(知識・技能)」「理解していること・できることをどう活用するか(思考力・判断力・表現力)」「どのように社会・世界と関わり、より良い人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」の三要素に整理しました(文部科学省, 2015)[3]。この中で、特に幼児期においては、感情や行動のコントロール、粘り強さといった「非認知能力」を育むことが重要であると強調しています。
近年、非認知能力はビジネスの現場でも非常に重視されており、その育成に向けた取り組みが活発化しています。
例えば、Googleは社員の心理的安全性を高めることで、チームのパフォーマンス向上に成功したと報告しています。この心理的安全性には、社会性や共感力といった非認知能力が大きく寄与すると考えられています。
しかし、既存の非認知能力尺度の多くは、児童期から青年期を対象としたものであり、成人、特にビジネスパーソン向けの尺度は不足しているのが現状です。この診断では、こうしたギャップを埋めるべく、ビジネスシーンにおける非認知能力に特化した尺度を作成することを目的としました。
非認知能力は、先行研究で以下のように定義されてきました。
目標達成、他者との協力、感情の管理に役立つもの(OECD, 2015)[2]
感情や行動のコントロール、粘り強さ(文部科学省, 2015)[3]
意欲、長期的計画の実行能力、他者との協働に必要な社会的・感情的制御(Heckman, 2013)[4]
これらの定義は主に、児童期や青年期を前提としたものです。
そこで、当診断ではビジネス上の非認知能力を「感情管理、自己調整、対人関係構築を通じて、職業での成果向上やチームの円滑な協働、社会的適応を促進する能力」と定義しました。
【質問項目候補とKJ法】
ビジネス場面で必要とされる非認知能力に関連する質問項目は、OECDや文部科学省などの公的機関の言及、および先行研究(奥村・池田, 2020)[5]を参考にブレーンストーミングで幅広く収集しました。その後、収集した項目をKJ法を用いて分類・整理し、概念的な枠組みを構築しました。
【質問項目の決定】
KJ法による分析結果に基づき、8つの因子(構成要素)を設定し、各因子について3つの質問項目を厳選しました。
<自己効力感 (Self-efficacy)>
仕事で成果を出してきたと思う
自分ならできると考える
頑張れば結果を出せると思う
<忍耐力 (Perseverance)>
試練があっても粘り強く対処できる
失敗をしても、再挑戦できる
長期的な課題に諦めず取り組む
<感情コントロール力 (Emotional Regulation)>
冷静さを保てる方だと思う
プレッシャーを感じない方だ
感情を切り替える力があると思う
<社交スキル (Social skills)>
周囲の人と積極的に会話をする
会話には困らない方だ
打ち解けるのは早い方だ
<協調性 (Cooperation)>
相手の意見をしっかり傾聴できる
仲間や取引先とスムーズに連携できる
意見の食い違いを乗り越えることができる
<リーダーシップ (Leadership)>
メンバーをまとめることができる
周囲を励まし、やる気を引き出すことができる
チームの中心として活躍できる
<問題解決力 (Problem-solving Ability)>
問題が起こったら論理的に原因を分析する
問題に対して解決策をたくさん発想できる
問題を解決するためすぐに行動する
<倫理観 (Ethical sense)>
自らミスを認め謝罪できる
失敗をしたら隠さず報告する
誰も見ていなくても道徳を守る
【採点方法】
質問項目数: 8因子 × 各3問 = 計24問
回答形式: 5件法(以下の得点配分)
全く当てはまらない:0点
当てはまらない:1点
どちらともいえない:2点
当てはまる:3点
よく当てはまる:4点
【各因子の評価基準】
各因子の得点に基づき、非認知能力のレベルを以下の3段階で評価します。
高い: 10~12点
中程度: 8~9点
低い: 0~7点
【総合評価の基準】
全質問項目の合計点に基づき、非認知能力の総合的なレベルを以下の4段階で評価します。
非認知能力-かなり高い: 79~96点
非認知能力-やや高い: 66~78点
非認知能力-やや低い: 53~65点
非認知能力-かなり低い: 0~52点
診断結果については、それぞれのタイプごとに特徴や注意点を約1,000文字で評価しました。これらの記述は、先行研究と作成者の臨床経験に基づいています。
[1] Schweinhart, L. J. (2004). The High/Scope Perry Preschool Study Through Age 40. Retrieved from https://highscope.org/wp-content/uploads/2024/07/perry-preschool-summary-40.pdf
[2] OECD. (2015). Skills for Social Progress: The Power of Social and Emotional Skills. Paris: OECD Publishing.
[3] 文部科学省 (2015). 資料1 教育課程企画特別部会 論点整理. Retrieved from https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/attach/1364306.htm
[4] Heckman, J.J. (2013). Giving Kids a Fair Chance. The MIT Press, MA.
[5] 奥村咲, 池田琴恵 (2020). 大学生の非認知能力と関連する幼少期の体験の検討. 東京福祉大学紀要, 10, 155–165. Retrieved from https://tokyo-fukushi.repo.nii.ac.jp/record/59/files/17_vol.10,p155-165,Okumura.pdf