ジョハリの窓は、「自己理解」と「他者理解」のバランスを視覚的にとらえるための心理学モデルです。本診断では、あなたの自己開示の傾向(自分をどれだけ他者に伝えているか)と、他者視点の自己理解(他人からの印象や評価を受け入れる力)を測定し、4つのタイプに分類します。
*歴史的背景
ジョハリの窓(Johari Window)は、1955年にアメリカの心理学者ジョセフ・ルフト(Joseph Luft)とハリントン・インガム(Harrington Ingham)によって、UCLAのグループ・ダイナミクス研修において初めて紹介された、自己理解と対人関係の可視化モデルである【1】。モデル名の「ジョハリ」は、両者のファーストネーム「Joseph」と「Harrington」に由来する。
このモデルでは、自己情報を以下の4つの領域に分類する。
- 開放の窓:自分も他者も知っている領域
- 秘密の窓:自分は知っているが他者は知らない領域
- 盲点の窓:他者は知っているが自分は知らない領域
- 未知の窓:自分も他者も知らない領域
この4象限モデルは、対人関係トレーニング(Tグループ)において広く用いられ、自己開示やフィードバックの重要性を伝えるための基盤となった【2】。
その後、インガムはNTL研究所(National Training Laboratories)での実践活動を通じて、ジョハリの窓をフィードバック技法として応用する報告を行っている【3】。本モデルは、組織開発、教育、心理支援の現場などにおいても幅広く活用されている。
ジョハリの窓はもともと図式的なフレームワーク(4象限モデル)であり、Luft & Ingham(1955)自身がリッカート式質問紙などの心理尺度として開発したわけではない。しかし、縦軸(自己開示)と横軸(他者からの自己認識)に関する心理的傾向を測定する信頼性ある尺度はいくつか存在する。
*自己開示に関する尺度
● Revised Self-Disclosure Scale(RSDS)
RSDSは、対人関係における自己開示の深さや率直さを測る尺度で、5〜7件法のリッカート式で構成される。因子数は1因子で、開示行動の全体的傾向を評価する【4】。
● Self-Disclosure Index(SDI)
SDIは、性格・感情・経験などの個人的情報をどの程度他者に開示するかを測定する7件法の尺度である。因子数は1因子で、開示の積極性や頻度を簡潔に捉える構成となっている【5】。
*客観的な自己評価に関する尺度
● Self-Consciousness Scale(SCS)
SCSは、他者からの視線や評価をどの程度意識するかを測定する尺度で、3因子構成(私的自己意識・公的自己意識・社会的不安)から成る。特に公的自己意識因子が、客観的自己への意識の程度を反映する【6】。
● Feedback Orientation Scale(FOS)
FOSは、他者からのフィードバックに対する受容的態度と活用意識を測定する尺度で、4因子構成(有用性・責任感・社会的認知・自己成長志向)を持つ。実務的な応用も広く行われている【7】。
本診断では、上記の信頼性ある既存尺度を参考に、ジョハリの窓の縦軸(自己開示)および横軸(他者視点の自己理解)を簡潔に測定できるよう設計を進める。
公認心理師、臨床心理士、心理学の大学院を卒業したものが中心となりブレーンストーミングを行いました。その後、検討を加えたうえで質問項目を精査しました。短時間で診断が終わり、結果を把握できるようにするため、ジョハリの窓の縦軸(自己開示)および横軸(他者視点の自己理解)を簡潔に測定できるようそれぞれ10項目の質問を選定しました。
【自己開示(縦軸)10問】
1.自分の気持ちを素直に伝える
2.私生活の話も抵抗はない
3.自分から悩みを話すことが多い
4.失敗や弱さも話せるほうだ
5.他人の目を気にせず話す
6.感謝を自分から伝えることが多い
7.感情を表に出すほうだ
8.信念を相手に伝えようとする
9.感じたことを会話で話す
10.自分の経験を自然に話す
【他者視点の自己理解(横軸)10問】
11.他人から見た自分を意識する
12.アドバイスをくれる人が多い
13.場に応じた適切な振る舞いが得意だ
14.他者の指摘を素直に受け入れる
15.客観的な指標で評価される機会がある
16.自分の長所を複数言える
17.自分の話し方を鏡や動画で把握する
18.短所を指摘してくれる人がいる
19.周囲に合わせた反応ができる
20.人を怒らせることは少ない
③の質問に対して3件法で以下の配点を適用します。
はい: 8点
どちらでもない: 4点
いいえ: 1点
この配点方法を採用したのは、診断結果をジョハリの窓の図形上に視覚的に反映させるためです。もし「はい」を10点、「いいえ」を0点とすると、すべての質問に「はい」と答えた場合に「秘密の窓」や「盲点の窓」がゼロとなり、窓のバランスを視覚的に捉えるというジョハリの窓の本来の目的から外れてしまうためです。最小点数を1点としたのも、同様の理由で、窓が完全に消滅することを防ぐためです。
上記の趣旨を元に以下の4つのタイプに分類をしました。
①開放の窓‐優位型
自己開示スコア 51~80点
他者視点スコア 51~80点
条件式 自己開示 ≧ 51 かつ 他者視点 ≧ 51
②秘密の窓‐優位型
自己開示スコア 51~80点
他者視点スコア 10~50点
条件式 自己開示 ≧ 51 かつ 他者視点 ≦ 50
③盲点の窓‐優位
自己開示スコア 10~50点
他者視点スコア 51~80点
条件式 自己開示 ≦ 50 かつ 他者視点 ≧ 51
④未知の窓‐優位型
自己開示スコア 10~50点
他者視点スコア 10~50点
条件式 自己開示 ≦ 50 かつ 他者視点 ≦ 50
①~④について図形上は0~100点の表記として窓がつぶれる状態を回避することとしました。
診断結果について、それぞれのタイプごとに特徴や注意点を1,000文字前後で評価しました。文章については、先行研究や作成者の臨床経験を基に作成しました。
当診断は因子構造及び信頼性・妥当性をチェックしたものではありません。あくまで専門家としての検討を加えたものです。統計的な根拠が希薄で、研究に耐えられるレベルの尺度ではないことをご了承ください。
【1】Luft, J., & Ingham, H. (1955). The Johari Window: A Graphic Model of Interpersonal Awareness. UCLA Western Training Lab.
【2】Luft, J. (1969). Of Human Interaction. National Press Books.
【3】Ingham, H. (1970). Group Feedback and the Johari Window. NTL Institute.
【4】Chelune, G. J., Robison, J. T., & Kommor, M. J. (1981). A cognitive interactionist model of intimate relationships. In M. Cook (Ed.), The Bases of Human Sexuality.
【5】Miller, R. S., Berg, J. H., & Archer, R. L. (1983). Openers: Individuals who elicit intimate self-disclosure. Journal of Personality and Social Psychology, 44(6), 1234–1244.
【6】Fenigstein, A., Scheier, M. F., & Buss, A. H. (1975). Public and Private Self-Consciousness: Assessment and Theory. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 43(4), 522–527.
【7】London, M., & Smither, J. W. (2002). Feedback orientation, feedback culture, and the longitudinal performance management process. Human Resource Management Review, 12(1), 81–100.