診断結果では、それぞれの領域における「WILL」と「CAN」の得点を算出し、両者の差(ギャップ指数)をもとにタイプに分類します。 是非参考にしてみてください。
現代のキャリア選択においては、単に「できること」や「やりたいこと」の一方だけでなく、両者を総合的に捉える視点が重要とされています。
従来の適職診断は、職業興味や価値観を測定するもの、あるいは能力や適性を評価するものに分かれる傾向がありました。しかし、実際のキャリア形成では「意欲・価値観(WILL)」と「能力・スキル(CAN)」の双方を考慮し、その差を把握することが、現実的で持続可能な職業選択につながるとされています【1】。
本研究では、WILLを6因子24項目、CANを6因子20項目で測定し、両者の差を「一致率」として数値化する尺度を設計します。このようにWILLとCANを統合的に扱う視点は、近年のキャリア理論においても注目されており、自己理解と職業選択の一致度を高める上で有効と指摘されています【2】。
さらに、本研究は国際的に広く用いられるRIASECモデルを基盤としています。ものづくり(Realistic)、研究的(Investigative)、芸術的(Artistic)、社会的(Social)、企業的(Enterprising)、慣習的(Conventional)の6領域を参照し、各領域に代表される職種との関連を明らかにすることで、受検者は自身のWILLとCANのバランスを理解し、理想と現実を踏まえた適職候補を検討できるようになります【3】。
・WILLとは何か
WILLとは、職業選択やキャリア形成において「やりたいこと」「価値を置くこと」「関心や動機の方向性」を指す概念です。個人の興味や価値観は、キャリアの持続性や満足度を規定する重要な要素であり、能力や環境条件(CAN, MUST)と並んで職業適合性を決定づけます。
・質問項目の作成
本尺度では、RIASECモデル(Holland, 1997)に基づき各領域を因子とし、それぞれに4問ずつの質問項目を作成しました。各項目は「行動の好み」や「価値観の表明」を直接問う形式とし、回答者が自身の志向性を自然に反映できるように設計しています。こうした構成により、受検者がどの領域に関心や価値を置いているかを可視化し、適職判定の基盤を整えることができます。
・CANとは何か
CANとは、個人が実際に発揮できる能力や資質、スキルを指します。職業選択においては「できること」を意味し、知的能力、問題解決力、対人スキル、実務遂行力、創造力、適応力など、多面的な特性を含みます。CANは単に知識や資格だけでなく、状況に応じて柔軟に能力を活用できる行動特性も含む概念です。職業心理学では、CANは「職業適性」や「コンピテンシー」として定義され、職務遂行の予測因子として重視されています。WILLが動機的側面を測るのに対し、CANは実際のパフォーマンスや適応可能性を反映するものであり、両者を併せて測定することで、効果的なキャリア選択を支援することができます。
・質問項目の作成
本尺度では、RIASECモデルを基盤に6領域を因子として設定し、それぞれに能力・資質を測定する4問ずつの項目を作成しました。質問は「具体的なスキルの発揮」や「行動の特徴」に焦点を当て、回答者が自身の強みを自然に反映できるように設計しています。たとえば研究的領域では分析力や論理的思考、社会的領域では対人スキルや協働力を測る項目を配置しました。こうした構成により、受検者の能力傾向を多面的に把握でき、WILL(意欲・価値観)と対比させることで、現実的に実現可能な職業選択の基盤を整えることができます。
・Will尺度の設計
①はじめにものづくり的(Realistic)
実務的・手作業・身体活動への志向
1. 道具や機械を扱う仕事に魅力を感じる
2. 手を動かして成果が形になると楽しい
3. 屋外で体を使って活動することが好きだ
4. モノを作ったり直すことにやりがいを感じる
②研究的(Investigative)
探究・分析・論理的思考への志向
5. 複雑な問題を分析することに興味がある
6. 新しい知識を学ぶことに楽しさを感じる
7. データや証拠をもとに考えるのが好きだ
8. 論理的に筋道立てて考えることにやりがいを持つ
③芸術的(Artistic)
表現・創造・独創性への志向
9. 自分のアイデアを自由に表現したい
10. 芸術やデザイン活動に心惹かれる
11. 新しい方法を試すことに好奇心がわく
12. 個性を活かした表現に充実感を覚える
④社会的(Social)
援助・教育・人間関係への志向
13. 人の役に立つことで喜びを感じる
14. 仲間と協力して目標を達成するのが好きだ
15. 困っている人を支援したいと強く思う
16. 感謝されることにやりがいを感じる
⑦企業的(Enterprising)
主導・交渉・影響力への志向
17. 人をまとめてリーダーシップを発揮したい
18. 大きな目標に挑戦することに意欲を持つ
19. 説得や交渉で物事を前に進めることが楽しい
20. 新しい事業を立ち上げることに興味がある
⑥慣習的(Conventional)
規則・組織・安定性への志向
21. 整理された環境で仕事をすることに安心感がある
22. データや書類をきちんと扱うことにやりがいを持つ
23. 安定した環境で長く働きたいと考える
24. 手順が決まっている仕事がうれしい
CAN尺度の設計
①ものづくり(Realistic)
身体活動・実務遂行・技術的作業に関する能力
1. 機械や道具を正しく操作できる
2. 手作業や体を使った作業をやり遂げる
3. 空間的な配置や構造を理解できる
4. 屋外や実地の活動にも対応できる
②研究的(Investigative)
認知的能力・分析力・問題解決力
5. 複雑なデータや情報を整理できる
6. 仮説を立てて検証することが得意
7. 論理的に筋道を立てて考えられる
8. 新しい知識や理論を学ぶのが速い
③芸術的(Artistic)
創造力・発想力・表現力
9. 新しいアイデアを生み出せる
10. デザインや表現の工夫が得意
11. 感覚的要素を活かした活動ができる
12. 型にとらわれない発想を形にできる
④社会的(Social)
対人スキル・協働力・共感力
13. 人の気持ちを理解して行動できる
14. グループで協力して成果を出せる
15. 初対面の人とも関係を築ける
16. 困っている人を支援する行動ができる
⑤企業的(Enterprising)
リーダーシップ・影響力・企画力
17. 人をまとめて方向性を示すことができる
18. 説得や交渉で物事を前に進められる
19. 新しい取り組みを計画し実行できる
20. 組織やチームに変化をもたらせる
⑥慣習的(Conventional)
正確性・計画性・安定性
21. データや文書を正確に扱える
22. 計画を立てて順序通りに遂行できる
23. 細かい作業を正確に続けられる
24. 決められたルールを守って仕事ができる
・ 尺度の概要
本尺度は、各因子を四項目・五件法(0~4点)で測定し、合計得点は0~16点となるように構成されています。理論上の平均値は8点、分散は約10.7、標準偏差は約3.3と推定されます。
・ 得点区分の設定根拠
得点区分の根拠としては、低=0~8点、中=9~12点、高=13~16点の三段階を設定しています。この区分は、正規分布を仮定した理論的想定に基づくものであり、中央値付近の9~12点は平均値±0.5標準偏差の範囲に該当し、母集団のおよそ38%が含まれます。高得点帯である13点以上は上位約25~30%に位置し、より厳密な基準として設定されています。
・分布特性と区分の妥当性
この分布特性により、低(下位約35%)、中(約38%)、高(上位約27%)の三分類が可能となります。区分の境界は統計的に妥当であり、特に高得点帯をやや厳しく設定することで、特性が顕著に高い個体をより選択的に抽出することができます。
・実務上の活用意義
実務上の活用においては、理論的平均点付近(9~12点)を「中」と定義することで、実際の集団データを用いた場合にも正規分布に基づく区分との整合性を維持することができます。また、母集団データに基づき平均値および標準偏差を再推定することで、より精緻な判定を行うことが可能になります。
・評価構成と得点基準
各分野は4問×4点満点で構成され、合計最大得点は16点となります。理論上の平均点はおおよそ8点前後です。得点区分の基準は次のとおりです。
0~8点:低い
9~12点:中くらい
13~16点:高い
ポテンシャル得点の算出
WILLとCANを合計し、100点満点のポテンシャル得点を算出します。
この得点は意欲と能力の総合的な潜在力(ポテンシャル)を示し、数値が高いほど実行力と成長余地が大きいことを表します。
計算式
ポテンシャル得点 = WILL + CAN
範囲:0~100点
例
WILL=45、CAN=40 の場合
ポテンシャル得点 = 85点
一致率の算出方法
一致率は、WILLとCANの差(ギャップ値)に基づいて算出します。
両者の差が小さいほど整合度が高く、一致率(%)が上昇します。
計算式
一致率(%)= {1 − (|WILL − CAN| ÷ 50)} × 100
例
WILL=45、CAN=40 の場合
一致率 = {1 − (5 ÷ 50)} × 100 = 90%
総合適職度スコアの算出
総合適職度スコアは、ポテンシャル得点と一致率(%)を掛け合わせて算出します。
意欲(WILL)と能力(CAN)の両方が高く、整合している場合に最大値を示します。
どちらか一方に偏りがある場合は、自動的にスコアが低下する設計です。
計算式
総合適職度スコア = ポテンシャル得点 × (一致率 ÷ 100)
範囲:0.0 ~ 100.0点
例
ポテンシャル得点 = 85
一致率 = 92.9% の場合
総合適職度スコア = 85 × 0.929 = 78.0点
適職度スコアの区分
算出されたスコアをもとに、次の3段階で評価します。
分布の実態に合わせて高適職度を30%、中適職度を35%、低適職度を35%とする設計です。
高適職度(Excellent):70点以上(上位約30%)
中適職度(Standard):50~69点(中位約35%)
低適職度(Low):49点以下(下位約35%)
高適職度は、意欲・能力・一致率のいずれも高水準で、安定した成果や専門的成長が期待できる層。
中適職度は、安定感があり、努力や経験によってさらに高い成果に発展できる層。
低適職度は、まだ発展途上または方向性の再検討が有効な層を示します。
ギャップ判定(WILL − CAN)
WILLとCANの差をギャップ値Gとして算出し、次のように分類します。
許容幅をやや広く設定し、実務上の自然な差異も考慮しています。
計算式
G = WILL − CAN
判定区分
一致タイプ:|G| ≤ 6
意欲と能力がバランス良く一致しており、安定した成果が期待できます。
WILL優位タイプ:G > 6
意欲が高く、能力がやや追いついていない状態です。スキルの強化が成果に直結します。
CAN優位タイプ:G < −6
能力は十分ですが意欲が低下している傾向があります。動機づけや環境調整が効果的です。
診断結果と文章生成
最も適職度の高い職種領域を1つ抽出し、診断コメントを自動生成します。
同点の場合は、以下の順で優先的に抽出します。
ものづくり(Realistic)
研究的(Investigative)
芸術的(Artistic)
社会的(Social)
企業的(Enterprising)
慣習的(Conventional)
診断結果の構成
各診断結果は、6つの職種カテゴリについて、
適職度(3段階) × ギャップ判定(3パターン)の組み合わせにより、合計54通り(6職種 × 3 × 3)の診断文を自動生成します。
スコア算出例
| WILL | CAN | ポテンシャル得点 | 一致率(%) | 総合適職度スコア | 判定|
| ---- | --- | -------- | ------ | -------- | ------------ |
| 50 | 50 | 100 | 100 | 100.0 | 高(Excellent) |
| 45 | 40 | 85 | 92.9 | 78.0 | 高(Excellent) |
| 35 | 30 | 65 | 92.9 | 60.4 | 中(Standard) |
| 40 | 20 | 60 | 71.4 | 42.8 | 低(Low) |
当診断は因子構造及び信頼性・妥当性をチェックしたものではありません。あくまで専門家としての検討を加えたものです。統計的な根拠が希薄で、研究に耐えられるレベルの尺度ではないことをご了承ください。
【1】Lent, R. W., Brown, S. D., & Hackett, G. (1994). Toward a Unifying Social Cognitive Theory of Career and Academic Interest, Choice, and Performance. Journal of Vocational Behavior, 45(1), 79–122.
【2】Savickas, M. L. (2013). Career Construction Theory and Practice. In R. W. Lent & S. D. Brown (Eds.), Career Development and Counseling. Wiley.
【3】Holland, J. L. (1997). Making Vocational Choices: A Theory of Vocational Personalities and Work Environments. Psychological Assessment Resources.