ファシリテーションとは、会議や対話の場で参加者の意見や感情を引き出し、相互理解と合意形成を支援するスキルです。単に議論を進める技術ではなく、人と人の関係をつなぎ、安心して意見を交わしながら創造的な成果を導くための姿勢と方法を指します。
本診断では、ファシリテーションに関わる7つの力を測定します。
それぞれの因子は、場の準備から対話、合意形成、実行までの流れを支える実践スキルを示しています。結果は能力の優劣を決めるものではなく、自分の強みや今後伸ばしたい部分を把握するための手がかりです。自己理解を通じて、より良い協働と信頼を生む場づくりにつなげてください。
ファシリテーションとは、会議や対話の場において、参加者一人ひとりの意見や感情を引き出し、相互理解と合意形成を支援するスキルを指します。日本ファシリテーション協会(2003)は、ファシリテーターを「人と人との関係の中で、対話と創造を促す支援者」と定義しています。この考え方は、ロジャース(1951)の人間中心的アプローチや、ショーン(1983)のリフレクティブ・プラクティス理論などの影響を受け、1970年代以降、教育・組織開発・地域づくりなどの分野で体系化が進められてきました。
先行研究では、ファシリテーションは単なる会議運営の技法ではなく、「関係構築力」「傾聴力」「合意形成力」「構造化力」など、複数の心理的および実践的スキルから構成される複合的な概念として捉えられています(Kaner, 2007; Schwarz, 2002)。国内でも、対話型組織開発やワークショップの実践を通して、メンバーの主体性や創造性を高めるための重要な要素として注目されています。
しかし、既存の尺度や教育プログラムは専門家や研修現場向けに設計されたものが多く、一般の社会人が自分のファシリテーション傾向を振り返るには、抽象的で難しい点が少なくありません。また、ファシリテーションは会議進行の技術だけではなく、日常の人間関係やチームの中で「場を整え、対話を促す力」としても重要です。こうした観点を評価する一般向けツールは、これまで十分に整備されていませんでした。
そこで本診断では、心理学、組織行動学、対話実践の理論に基づき、日常生活や職場など幅広い場面で活用できる一般向けのファシリテーションスキル尺度を作成しました。人と人をつなぎ、意見を整理し、協働を促す力を8つの要素に分けて測定します。本診断を通して、自分がどのように「場を支え、関係を育て、対話を前進させているか」を振り返ることで、より健全で創造的なコミュニケーションづくりに役立てていただくことを目的としています。
上記論文の調査後、それぞれの測定項目について、公認心理師、臨床心理士、心理学の大学院を卒業した者が中心となり、検討を加え質問項目を精査しました。設定した7因子についてそれぞれ4つの質問を設定し、合計28問の尺度としています。
1.事前準備力
参加意欲を高めるメリットを伝える
最適な進行プロセスを事前に設計する
議論の論点と必要情報を整理する
最適な机の配置や機材を考える
2.スタート力
開始前にメンバーと積極的に会話する
場の緊張を和らげる工夫を効果的に行う
冒頭で主目的と期待成果を宣言する
アジェンダと時間配分を共有する
3.積極的傾聴力
発言を要約し理解を確認して次に繋げる
感情や真意を共感的に受け止め場を作る
適切なタイミングで的確な質問をする
相槌にバリエーションを持たせる
4.対話活性化力
発言が少ない人に配慮し意見を求める
新しい視点や異論を積極的に歓迎する
全員に肯定的なリアクションを取る
ブレーンストーミング法を実施できる
5.構造化可視化力
複雑な意見を整理し要点を伝える
議論の流れや論点を図で明確に示す
重複意見や論点を統合し停滞を防ぐ
決定前に全員の理解一致を確認する
6.コンセンサス
対立時に主張を冷静に整理し調整する
全員が納得できる共通の論点を探す
決定プロセスに全員を巻き込む
妥協でなく納得できる結論を目指す
7.実行コミットメント
誰が何をいつまでにやるか明確にする
期限が現実的か確認しコミットを得る
実行へ繋がるフォロー計画を立てる
決定は必ず実行されるという確信を示す
【回答方式】
各質問は次の5件法で回答します。
全く当てはまらない 0点
あまり当てはまらない 1点
どちらともいえない 2点
やや当てはまる 3点
よく当てはまる 4点
【各因子の採点方法】
各因子は4問で構成されています。
各因子の合計点は 0〜16点 となります。
高 13〜16点 高い
中 8〜12点 中程度
低 0〜7点 低い
【全体スコア評価(改訂版)】
全28問(0〜4点×28問)=合計0〜112点
平均値はほぼ中央(56点)付近、標準偏差を約14点前後と仮定して、
全体を25%ずつの人数分布(4区分)に調整しました。
0〜46点 ファシリテーション力 かなり低い(下位25%)
47〜61点 ファシリテーション力 やや低い(25〜50%)
62〜76点 ファシリテーション力 やや高い(50〜75%)
77〜112点 ファシリテーション力 かなり高い(上位25%)
診断結果について、それぞれのタイプごとに特徴や注意点を1,000文字前後で評価しました。文章については、先行研究や作成者の臨床経験を基に作成しました。
当診断は因子構造及び信頼性・妥当性をチェックしたものではありません。あくまで専門家としての検討を加えたものです。統計的な根拠が希薄で、研究に耐えられるレベルの尺度ではないことをご了承ください
日本ファシリテーション協会(2003)『ファシリテーションとは』日本ファシリテーション協会
Rogers, C. R. (1951). Client-Centered Therapy. Houghton Mifflin.
Schön, D. A. (1983). The Reflective Practitioner. Basic Books.
Kaner, S. (2007). Facilitator’s Guide to Participatory Decision-Making. Jossey-Bass.
Schwarz, R. (2002). The Skilled Facilitator. Jossey-Bass.