私たちは日常のあらゆる場面で人と関わっていますが、「話す・聞く」といった会話スキルを客観的に把握する機会は多くありません。多くの方が自己流で会話を進め、自身の持つ強みや癖を見過ごしがちです。
診断結果では、それぞれの点数に加え、スキルを具体的に伸ばすためのアドバイスを詳しく解説します。あなたの成長の羅針盤として、定期的なチェックで確かなスキルアップを目指しましょう。
会話スキルの体系的な研究は、20世紀中頃の対人コミュニケーション研究の発展とともに始まりました。アージル(1972)は、社会的スキルの中核として「話す」「聞く」「応答する」といった行動的要素を整理し、ハーグリーヴス(1986)は、会話の構成要素を発話・傾聴・非言語表現・相互調整の4つの側面に体系化しました。スピッツバーグとカプラン(1984)は、会話能力を「効果性」と「適切性」の2軸で捉え、その後の尺度開発の理論的基盤を確立しています。
スピッツバーグとアダムズ(2007)によるConversational Skills Rating Scale(CSRS)は、注意・落ち着き・表現性・協調の4因子構造を提示しています。近年では、クーデンバーグら(2023)が会話中の心理的つながりを測定するConnection During Conversations Scale(CDCS)を、ポリティスら(2023)が非言語的反応を観察するConversation Skills Assessment Tool(ChAT)を開発しています。
これらの既存尺度は学術的な貢献が大きい一方で、対象が大学生や健常成人に偏りやすく、日常生活における多様な会話場面を十分に反映できていないという課題があります。また、行動を細分化した実用的な指導指標が不足している点も指摘されています。
本診断は、こうした課題を補うことを目的としています。実務現場での活用と、個人の強みや弱みを迅速に把握することを重視し、先行理論と行動観察研究を基盤として、会話スキルを「聴く力」「話す力」「展開力」「非言語力」の4つの主要因子として再構成しました。各因子は現場のニーズに即した行動的指標に基づいており、統計的な厳密性よりも、教育的・実践的なフィードバックの有用性を追求しています。
公認心理師、臨床心理士、心理学の大学院を卒業した者が中心となり、会話スキルについてブレーンストーミングを実施しました。その後、KJ法によりグルーピングを行い、4つの因子に分類し、質問項目の精査を加えました。
①聴く力
違和感のない自然なオウム返し
相手の話を要約して返す
相手の発言を肯定的に返す
相手の人間性を肯定する
5W1Hに関する質問
感情に焦点を充てた質問
②話す力
5W1Hで話の土台を作る
話に感情的な描写を入れる
話に具体例を加えて話す
比喩や例え話を使う
軽い冗談を交えて話す
話題を豊富に発想できる
③展開力
自分から会話をはじめる
話題を深堀して長持ちさせる
出た話題をお互い共有する
時系列を意識した会話
集団の会話に入っていける
集団で孤立している人に話を振る
④非言語力
会話の時によく笑う
声に抑揚がある
適切な大きさの声量がある
胸を張って姿勢を良くする
適度に間を取りながら会話をする
相手に合わせてスピードを調整する
診断結果は、得点タイプごとに特徴と注意点を1000文字前後でまとめた。内容は先行研究で示された理論的知見と、作成者の臨床経験を基に作成している。結果は個人の自己理解とスキル改善のための教育的示唆として提供しています。
当診断は学術研究用の尺度ではない。本診断は、臨床家と専門家の知見および先行研究をもとに、実用的なコミュニケーション改善のヒントを提供する目的で作成されたものです。
本診断は、因子構造の統計的検証、信頼性係数、および妥当性の確認といった心理測定学的検証を実施していません。そのため、統計的根拠は限定的であり、学術研究に使用することは推奨されません。診断結果は個人の自己理解と教育的フィードバックの参考情報としてのみご活用ください。
Argyle, M. (1972). The Psychology of Interpersonal Behaviour. Penguin Books.
Hargie, O. (1986). The Handbook of Communication Skills. Routledge.
Spitzberg, B. H., & Cupach, W. R. (1984). Interpersonal Communication Competence. Sage.
Spitzberg, B. H., & Adams, T. (2007). The Conversational Skills Rating Scale. UC Merced Assessment.
Cheng, Y. et al. (2015). Conversation Participation Rating Scale. Journal of Communication Disorders.
Koudenburg, N. et al. (2023). Connection During Conversations Scale (CDCS). PLOS ONE.
Politis, J. et al. (2023). The Conversation Skills Assessment Tool (ChAT). Journal of Autism and Developmental Disorders.
Maass, U. et al. (2022). Clinical Communication Skills Scale (CCSS-S). BMC Medical Education.