自分の意見や気持ちを率直に伝えながら、同時に相手の立場や感情も尊重するコミュニケーションのあり方を指します。攻撃的でも受け身でもなく、「自分も相手も大切にする」関わり方です。アサーティブな態度は、対人関係のストレスを減らし、信頼や協力を生む基盤になります。
アサーティブコミュニケーションとは、自分と相手をともに尊重しながら、率直で誠実に意見や感情を表現するスキルを指します。この概念はアルベルティとエモンズ(1970)によって体系化され、「攻撃的でも受け身でもない中間の自己表現」として提唱されました。続いてスミス(1975)は「自分の意見を言う権利」「断る権利」「感情を表現する権利」を整理し、アサーション・トレーニングを普及させました。
実証研究では、アサーティブ行動を測定する複数の尺度が開発されています。代表的なものにラサス自己主張尺度(Rathus Assertiveness Schedule: RAS)があります。RASは自己主張傾向を測る尺度で、研究により六から九の因子が抽出されており、「率直さ」「対人不安」「拒否表現」「争い傾向」など多面的な構造を持つことが示されています。また、Scale for Interpersonal Behavior(SIB)は「行動頻度」と「不快感」の二側面を測定し、肯定的主張、否定的主張、発信的主張、自己限界の表明の四因子から構成されることが確認されています。これらの研究は、アサーティブ行動が単一のスキルではなく、複数の心理的要素からなる複合的構造であることを明らかにしています。
一方で、既存尺度は臨床や研究目的で設計されており、一般の人が日常的に自己理解のために活用するには難しい点もあります。そこで本診断では、心理学的理論に基づきながらも、日常生活や職場などで実践的に活用できる一般向け尺度を作成します。自己表現力、他者尊重、感情表現、対立時対応などの要素を含め、誰もが自分のコミュニケーション傾向を振り返り、より健全で対等な関係づくりを促すことを目的としています。
上記論文の調査後、それぞれの測定項目について、公認心理師、臨床心理士、心理学の大学院を卒業した者が中心となり、検討を加え質問項目を精査しました。設定した8因子についてそれぞれ4つの質問を設定し、合計32問の尺度としています。
*8因子について
①自己尊重意識
②他者尊重意識
③攻撃的表現の少なさ
④非主張的表現の少なさ
⑤事実の描写スキル
⑥アイメッセージスキル
⑦調整的提案力
⑧限界設定スキル
アサーティブコミュニケーション力診断 質問項目(全32問)
①自己尊重意識
1 自分の考えには価値があると思う
2 自分の気持ちを大切にしている
3 失敗しても自分を責めすぎない
4 他人と比べて落ち込むことは少ない
②他者尊重意識
5 相手の立場を理解しようとする
6 相手の気持ちを考えて話す
7 意見が違っても相手を尊重できる
8 相手の良い点を見つけようとする
③攻撃的表現の少なさ
9 感情的な口調で指摘することはない
10 怒っても言葉を選ぶようにしている
11 相手に反論するときは冷静に話す
12 他者を寄せ付けない雰囲気はない
④非主張的表現の少なさ
13 言いたいことを我慢しすぎない
14 断りたいときはきちんと伝える
15 嫌なことを受け入れすぎない
16 相手の顔色を気にしすぎない
⑤事実の描写スキル
17 感情よりも事実を先に話せる
18 主観をまぜずに状況を伝えられる
19 起きたことを落ち着いて整理できる
20 誤解のないように事実を述べられる
⑥アイメッセージスキル
21 アイメッセージの意味がわかる
22 「私は~と感じた」と伝えられる
23 不満は「あなた」ではなく「私」で伝える
24 悲しいときは素直に気持ちを伝える
⑦調整的提案力
25 お互いに納得できる案を提案する
26 相手の考えを取り入れて提案する
27 衝突時でも積極的に解決策を話し合う
28 提案をする際は相手の利益も伝える
⑧限界設定スキル
29 無理な頼みを断ることができる
30 他人の問題を引き受けすぎない
31 自分にできる範囲をあらかじめ伝える
32 限界を感じたら素直に伝える
【回答方式】
各質問は次の5件法で回答します。
全く当てはまらない 0点
あまり当てはまらない 1点
どちらともいえない 2点
やや当てはまる 3点
よく当てはまる 4点
【各因子の採点方法】
各因子は4問で構成されています。
各因子の合計点は 0〜16点 となります。
高 13〜16点 高い
中 9〜12点 中程度
低 0〜8点 低い
【全体スコア評価(参考)】
全32問の合計点は 0〜128点 となります。
102〜128点 アサーティブ力かなり高い
77〜101点 アサーティブ力はやや高い
52〜76点 アサーティブ力はやや低い
0〜51点 アサーティブ力はかなり低い
この基準により、因子ごとの傾向と全体的なコミュニケーションスタイルのバランスを把握することができます。
診断結果について、それぞれのタイプごとに特徴や注意点を1,000文字前後で評価しました。文章については、先行研究や作成者の臨床経験を基に作成しました。
当診断は因子構造及び信頼性・妥当性をチェックしたものではありません。あくまで専門家としての検討を加えたものです。統計的な根拠が希薄で、研究に耐えられるレベルの尺度ではないことをご了承ください
当診断は因子構造及び信頼性・妥当性をチェックしたものではありません。あくまで専門家としての検討を加えたものです。統計的な根拠が希薄で、研究に耐えられるレベルの尺度ではないことをご了承ください
Alberti, R. E., & Emmons, M. L. (1970). Your Perfect Right. Impact Publishers.
Smith, M. J. (1975). When I Say No, I Feel Guilty. Dial Press.
Rathus, S. A. (1973). Rathus Assertiveness Schedule. Behavior Therapy, 4(3), 398–406.
Arrindell, W. A., et al. (1984). The Scale for Interpersonal Behavior (SIB): Construction, Reliability and Validity. Personality and Individual Differences, 5(3), 293–305.